高齢化社会といわれる昨今、高齢の親を持つ方の中には、将来的に認知症などになるリスクに備えて対策をされている方も多いかと思います。
認知症を発症してしまったら、どのような困りごとが出てくるのでしょうか。また、どのような対策がとれるのでしょうか。
ここでは認知症対策として、主に後見制度についてご説明してまいります。
もし認知症を発症してしまったら財産管理はどうなるのか
認知症を発症し、判断能力が低下したとみなされると様々な困りごとがでてきます。中でも、認知症を発症した方の財産管理については認知症を発症する前に対策することが重要となってまいりますので、よく学んでおくとよいでしょう。
仮に高齢の親が認知症になった場合、金融機関がその事実を知った時点で口座を凍結されてしまうことをご存知でしょうか。口座を凍結されると、例え配偶者や子であってもお金を引き出すことはできません。
親の名義の預金などを引き出すことや、不動産や株式を売却するなどは、もともと配偶者や子が勝手にできることではありませんが、親の意思能力があるうちであれば何かしらの方法をとることができます。
しかしながら、認知症になってしまった場合、財産は全く動かせなくなってしまうのです。そうならない為に、どのような対策があるのでしょうか。
認知症などで判断能力が低下してしまった人に代わって、後見人が財産管理や必要な契約などを行う「成年後見制度」というものがあります。
後見人がいれば、親が認知症になっても財産を動かすことができるのです。便利な制度ですが注意するポイントもあります。成年後見制度について詳しくみていきましょう。
成年後見制度について
成年後見制度はふたつの種類があります。ひとつは、認知症などにより判断能力が低下してから利用する「法定後見制度」です。もうひとつは、判断能力があるうちに公正証書を結ぶ、「任意後見制度」です。
それぞれの制度の違いは、財産管理や処分を代理してくれる後見人の選び方にあります。
法定後見制度
法定後見制度は、家庭裁判所に申立てをして後見人を選任します。後見人の選任は裁判所が行うので、家族がいても、専門職後見人(法律・福祉の専門家や、福祉関係の法人など)が選任されることもあります。
家族が後見人とされた場合は、多くはそれを管理する成年後見監督人が任命されます。
この制度を利用すると、後見人に選ばれた人以外は、財産の管理を行うことができません。家族であっても通帳を見ることもできなくなるのが原則となります。
後見人に選ばれなかった配偶者や子は、財産状況がわからなくなってしまうため注意が必要です。
成年後見制度は、本人の財産を守ることが目的とされているため、例えば家族の生活費や教育資金の援助などは、本人の財産から捻出することは難しくなる可能性があるのです。
さらに、もし後見人や後見監督人を家族以外の人が務めるなら、報酬が発生する可能性がありますので注意が必要です。法定後見制度は、利用すると本人が亡くなるまでやめることはできません。利用は慎重に検討しましょう。
任意後見制度
任意後見制度は、本人の意思を反映することができる方法です。将来的に判断能力が低下してしまった場合に備えて、元気なうちに後見人や契約の内容を決めておくというものです。
任意後見制度は契約内容を記載した公正証書を公証役場で作成し契約を結びます。後見人となる人は、本人が任意で選ぶことができます。親族でも、弁護士や司法書士などの専門家でも、第三者でも後見人になってもらうことができます。財産管理の方法についても詳しく決めておくことができるので、ご自身の意思や希望に沿うことができるでしょう。
その後、実際に認知症などを発症し判断能力が低下したら、家庭裁判所に申立てを行います。任意後見監督人が選任された後、任意後見が開始されます。
任意後見制度では、必ず家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され、任意後見人の行為がチェックされます。任意後見監督人への報酬がおよそ月に1万円~3万円程度発生しますので注意が必要です。
公正証書の作成には、2~3万円程度の費用が発生します。また、契約の内容などを専門家に相談をする場合は相談料がかかる可能性があります。
後見人にできること、できないこと
後見人が対応できること
後見人が対応してくれることとして、具体的には次のようなことが挙げられます。
預貯金の管理や解約
認知症になった本人の代わりに、生活費の引き出しや振り込みを行うことができます。
介護保険の契約
介護保険の契約は、介護施設などへの入所のために必要となることがあります。これは親族でもいいのではないかと思う方もいるでしょう。
しかし、成人した本人の代理をする権利は親族にはないのです。そのため、定められた後見人に手続きしてもらう必要があります。
身上監護
身上監護という言葉は聞きなれないかもしれませんが、後見人には本人の生活環境を適切に整える責務があります。
そのため、介護施設への入居手続きや、病院への入院手続きを行うことができるのです。
不動産の処分
本人が所有している自宅、賃貸アパートなどなどの不動産を管理、売却する手続きには、後見人が必要となります。
なお、後見人がいる場合の本人の自宅の処分は、家庭裁判所の許可が必要となります。
相続手続き
相続手続きにまつわる口座名義の変更や、遺言書の無い相続の場合は遺産分割協議をする必要があるため、判断能力が低下している場合は後見人が対応します。
後見人が対応できないこと
後見人がいればどんなことも対応してくれるというわけではありません。以下のようなことは、本人の意思によって決定されるべきものとされ後見人は対応することができません。
- 食事や排せつの介助行為など
- 身元保証人や身元引受人になること
- 入院保証人等になること
- 緊急の医療行為の判断や同意
- 入院保証人等になること
- 本人の住居を決めること
- 婚姻、離婚、認知等の代理、養子縁組・離縁、遺言など
- 入院先の手続きや介護サービスとの入所契約を支援する「身上監護」
このように、後見人がいても対応できないことも多々あるのです。
より柔軟に、ご自身の意思を反映させるかたちをとりたい方は、任意後見制度を利用できるように、早い段階から準備をすることをおすすめいたします。
まとめ
後見制度は、単純に本人の財産を保護するだけではなく、生活を維持し、向上させるために財産を活用する必要がありますので、本人の意思を尊重することが大切です。
法定後見制度は多くの場合、家族も財産を把握できなくなってしまいますが、任意後見制度であれば比較的柔軟な対応がとれます。
たとえ今健康であっても、年齢を重ねれば認知症になるリスクは誰しも高くなってくるものです。
将来のために元気なうちから準備を進めることをおすすめいたします。