相続が発生したとき、多額の金銭や高価な財産が動くことは決して珍しくありません。
「うちの家族は仲が良いから揉めるなんてことはない」とお考えの方は要注意です。
相続トラブルは、最悪の場合は裁判にまで発展してしまうもあります。大切なご家族がご自身の財産をめぐって揉めることがないよう、あらかじめ対策を講じておかなければなりません。
その対策方法として有効な手段が、遺言書です。
相続においては、遺言書の内容が法定相続よりも優先されます。
遺言書は、自らの意思表示としてご自身の財産の分配方法を指定できるほか、相続人間で起こりうる無用な相続トラブルを防止するためにも活用できます。
遺言書の有無で相続手続きの流れが変わる
遺言書の活用方法をご説明する前に、遺言書がないとどんな相続トラブルが起こるのかを知っておく必要があるでしょう。
まずは、相続が発生した場合の流れについてご説明いたします。
遺言書のない相続の場合
被相続人が遺言書を残していなかった場合は、「遺産分割協議」を相続人全員で行い、被相続人の所有していた遺産をどのように分割するかについて話し合う必要があります。
不動産や多額の貯金など、多額の相続財産が動くケースも珍しくありません。これまでどんなに良好な関係を築いてきたご家族やご親族であっても、トラブルの引き金となりうることはご想像いただけるのではないでしょうか。
遺言書がある相続の場合
被相続人の作成した遺言書が発見された場合は、基本的には遺言の内容に従って相続手続きを行うことになります。したがって、遺産の分割方法などについて相続人全員で協議を行う必要はなく、直ちに相続手続きに移ることができます。
遺産分割協議においては、相続人全員で話し合い、相続人全員の同意を得たうえでなければ、相続手続きに移ることができません。そのため、一人の相続人が優位な立場になろうとしたり、相続人同士での話がまとまらなかったりなどといった揉めごとが起きやすくなっています。このような相続トラブルを防止するためにも、遺言書を作成しておくことがおすすめです。
遺言書を活用することで防止できる相続トラブル
事例1:遺産分割協議がまとまらないケース
遺産分割協議では、「遺産分割協議書」を作成し、協議で決定した内容を記載し必要があります。
相続手続きの際には遺産分割協議書の提出を求められることがありますので、遺産分割協議書が完成しない限り相続手続きを完了させることができません。
遺産分割協議書は、相続人全員で署名・押印をしなければ、有効な書面として扱われません。署名・押印することで、相続人全員が合意したことの証明となります。
ところが、遺産分割協議に協力してくれない相続人がいたり、協議の内容に納得しない相続人が署名・捺印をせず話し合いが長期化してしまったりなどといった理由で、遺産分割協議書が完成しないということが実際にあります。なかには、相続人のうち1人が勝手に決めた遺産の分割方法を他の相続人に強要して合意を迫るようなケースもあるのです。
事前に遺言書を作成し、誰に・何の財産を・どのように相続させるについて明確に示しておけば、遺産の分け方をめぐって相続人同士で争いに発展するケースは回避できるでしょう。
事例2:複数人で不動産を相続するケース
相続人が住んでいた3,000万円のご自宅(土地および建物)を、相続人にあたる兄弟3人で相続するとします。
兄弟3人で平等に分割したい場合、土地建物の持分を3人で均等に分割する「現物分割」、もしくはご自宅を売却、現金化したうえで3等分する「換価分割」の方法を選択することになるでしょう。
ところが、兄弟のうち長男がご自宅を相続することを望んだ場合には、次男と三男はご自宅の土地および建物を受け取ることができません。
その場合、兄弟間で不平等な相続となってしまわないよう、ご自宅を相続する長男が他の兄弟2人に対してその分の代償金を支払うことになります。
このような分割方法のことを「代償分割」といいます。
ところが、代償分割というのは、ご自宅を相続する方が他の2人に代償金を支払うだけの十分な資力がなければそもそも実現できません。仮に資力があったとしても、代償金をいくらにするかで兄弟間で揉めてしまい、やはり話し合いが長引いてしまうという事態が起きやすくなっています。
このような兄弟間でのトラブルを回避するためには、お元気なうちからご自宅を相続させる人を決めておき、代償金の確保方法も検討しておくのが良いでしょう。兄弟間の平等性を十分に考慮した内容の遺言書を作成しておくことで、その内容に沿った相続手続きをしてもらうことができます。
遺言書には、長男がご自宅の土地建物を相続し、次男および三男にはそれぞれ〇〇円の代償金を支払うという内容を盛り込むこととなるでしょう。
事例3:複雑なご家族関係のケース
遺言書のない相続が発生した場合、被相続人と配偶者との間に子どもがいるのであれば、その配偶者と子が法定相続人にあたりますので、配偶者と子とで相続の内容を話し合えば良いわけです。
一方、子どもがいない場合には、被相続人の親が相続人にあたりますので、配偶者から見ると舅や姑といった間柄の人と遺産分割協議を行います。
もし、両者の関係性が良好でなかったり、音信不通であったりという事情があると、遺産分割協議を実施すること自体が難儀でしょう。
ほかにも、相続人全員で遺産分割協議の場を設けることが難しいと考えられるケースは以下のようなものが挙げられます。
- 認知症を患っている相続人がいる
- 相続人が遠方に住んでいる
- 被相続人の元配偶者との間に子どもが相続人にいる
- 認知された非嫡出子がいる など
近年増加しているのは、相続人の中に認知症を患っている人がいるケースです。遺産分割は法律行為にあたりますので、判断能力の低下している認知症の方は遺産分割協議を行うことができず、相続手続きが複雑になってしまうのです。
遺言書があれば遺産分割協議を行う必要がありませんので、上記のような状況の相続人の手を煩わせることも、相続手続きが滞る心配もないでしょう。
遺言書作成は法律の専門家へご相談ください
ご自身の財産の分割方法に関する意思表示のためにする書類であるのと同時に、ご家族やご親族の負担を減らし、面倒をかけないためにもぜひ作成していただきたいのが遺言書です。
遺言書を作成すればすべての相続トラブルを回避でいるということではありませんが、その発生リスクが格段に下がることは間違いありません。
ご自分の財産をめぐって大切なご家族やご親族が揉めることのないように、万が一に備えてしっかりとした遺言書を作成しましょう。
遺言書を作成するべきか、ご自身の意思を実現できる内容の遺言書を作成したいなど、遺言書に関するお困り事を抱えていらっしゃる方は、遺言書作成や相続手続きの知識経験の豊富な司法書士・行政書士の在籍している当センターへ、ぜひお気軽にご相談ください。